「JIS X 8341-3:2009」草案研究セミナーに参加してきた
少し前の事になりますがアクセシビリティのセミナーに行ってきました。講師はインフォアクシアの植木真さんです。3時間のセミナーを受けに、また東京まで行ってきました。
1月22日に公開された「JIS X 8341-3:2009 改正原案」を見ながら、今までの「JIS X 8341-3:2004」からどのように変化をしているのか、対応方法はどのように変化してくるのかを教えてもらいました。
大きな変化として、2004年版では「推奨」と「必須」となっていた要求レベルが2009年版からはすべて必須になり、その中でアクセシビリティ達成等級が「A」「AA」「AAA」という形で付くようになりました。
とりあえず基準を満たす形ならば「A」、きちんと対応するならば「AA」、ガッツリ厳密にやるならば「AAA」ということです。
JIS X 8341-3:2009 5つのキーワード
改正原案の前提として、5つのキーワードが挙げられました。
検証可能な基準
2004年版は基準に曖昧さがあり客観的評価は不可能だったのですが、2009年版では検証がしやすいように具体的な数値で基準が決められました。
2004年版 | 2009年版 |
---|---|
5.5c) [推奨] 画像などの背景色と前景色とには、十分なコントラストを取り、識別しやすい配色にすることが望ましい。 |
7.1.4.3) [等級AA] テキストおよび画像化された文字の視覚的な表現には、少なくとも4.5:1のコントラスト比がなければならない。 7.1.4.6) [等級AAA] より十分なコントラストに関する達成基準 テキストおよび画像化された文字の視覚的な表現には、少なくとも7:1のコントラスト比がなければならない。 |
5.8b) [必須] 早い周期での画面の点滅を避けなければならない。 |
7.2.3.2) [等級AAA] ウェブページには、どの1秒間においても3回を超える閃光を放つものがあってはならない。 |
数値が具体的に出たものはチェックソフト等で機械的評価ができるので、その部分に関して判断がしやすくなりました。
しかし、機械的評価ができない基準(制作側で判断する基準)に関しては、逆に、2004年版よりも2009年版の方が曖昧な表現が多くなっています。
2004年度版では「HTMLでコレを実装する場合はこんな感じ」というように具体的な例(スクリーンショット)がある場合も多かったのですが、2009年度版では「HTMLでコレをどう実現するかは、制作者に判断をゆだねる」というスタンスになってきています。
いちおう例は載っているのですが「情報提供を目的としており、推奨を意味するのではない」となっており、別紙「Understanding WCAG 2.0」と「Techniques for WCAG2.0」に載っているという形になっています。
具体的な実装方法がはっきりしていない事もあり、独自で実装方法を考え、その方法に問題なさそうであれば「JISに対応している!」と宣言してもいいそうです。なーんか、文章にするとすっごい微妙な感じもしますが。
技術非依存
2004年版は、暗に「(X)HTML+CSS」ベースを想定していたそうですが、2009年版はありとあらゆるWebコンテンツに適応させられることを想定しています。
「Webの技術は常に変化していくので、具体例を載せてしまうと5年後には通用しなくなるかもしれないし、誤解を招く場合があるから」ということです。「検証可能な基準」といいながら具体的な例が無くなったのは、この考えからですね。
正直「4?5年したら、また検討すればいいんじゃないの?」とかって思ってしまいましたが...。
2004年版 | 2009年版 |
---|---|
5.2 d) [推奨] 表組みの要素をレイアウトのために使わないことが望ましい。 |
7.1.3.2) [等級A] コンテンツが提供されている順序がその意味に影響を及ぼすときには、正確な読み上げ順序をプログラムで解釈可能にしなければならない。 |
5.3 h) [推奨] 共通に使われるナビゲーションなどのためのハイパリンクおよびメニューは、読み飛ばせるようにすることが望ましい。 |
7.2.4.1) [等級A] 複数のウェブページ上で繰り返されているコンテンツのブロックを通過できるメカニズムが利用可能でなければならない。 |
アクセシビリティ・サポーテッド
WCAG 2.0 では、「技術のアクセシビリティ・サポーテッドな使用法」という考え方を用いています。
で、この「技術をアクセシビリティ・サポーテッドな方法で用いる」というのは「支援技術(AT)および OS、ブラウザ、その他のユーザエージェントのアクセシビリティ機能と連携する」ということを意味します。あはは、なんのこっちゃですね。
かんたんに説明すると、アクセシビリティ・サポーテッドとは
- Webコンテンツが「WCAG 2.0」で決められたアクセシブルな方法で制作されており、
- それが、一般的なWebブラウザや音声読み上げソフトで利用できる方法であり、
- ユーザーがその方法を用いてWebコンテンツをアクセシブルに利用できる
ことです。
用件を満たす技術が2つあったとするならば、みんなが使える技術を使いなさいという事ですね。セミナーでは、例として「alt属性」と「longdesc属性」が挙げられていました。
img要素に代替えテキストを用意してアクセシブルにしたい場合、alt属性でもlongdesc属性でも代替えテキストという用件は果たす事ができます。
しかし、longdesc属性に対応しているWebブラウザや音声読み上げソフトはほとんど無いので「longdesc属性はアクセシビリティ・サポーテッドな方法ではない」となり、達成基準を満たすことができない方法という事になります。
依存する技術
- 2004年版
- JavaScriptをOFFにしている場合でも、コンテンツが利用できるようにしておく。
(イコール、JavaScriptでナビゲーションを提供するなって事) - 2009年版
- JavaScriptを利用してJISを達成できるならば、それはそれで問題ない。
なぜなら、ほとんどのWebブラウザでJavaScriptを利用できる(アクセシビリティ・サポーテッド方法である)から。
というように、2009年度版では「その技術を使うのがベストであり、かつアクセシビリティ・サポーテッドな方法で達成基準を満たしていればOK」というようになりました。
国際標準との整合
2004年版は(注1)日本語特有の問題など、JIS特有の項目を幾つか盛り込んでいました。そのため各国に支店を持つような国際企業の場合、ガイドラインがその国々に必要になりそれが負担になったりしていました。
そのため2009年度版では、その問題を考慮しWCAG2.0の内容をほとんどそのまま採用する形になりました。でもそうすると「日本語特有の問題はどうしたの?」となると思いますが、それらもWCAG2.0に含まれる形になりJISとの差はなくなりました。
注1:日本語特有の問題とは、「東 京」といったように単語内にスペースを入れた場合、音声読み上げの際に「とうきょう」ではなく「ひがしきょう」と読まれてしまう問題等のこと。
WCAG 2.0の4大原則を、JIS X 8341-3:2009でも採用
WCAG 2.0には下記の4大原則があるのですが、2009年版JISの方でもこれらを採用しています。上記の5つのキーワードと見比べればナルホドなという内容ですね。
- 原則1:知覚可能(Perceivable)
- 情報およびユーザインターフェースの構成要素は、利用者が知覚できる方法で提示される。
- 原則2:操作可能(Operable)
- ユーザインターフェースの構成要素およびナビゲーションは、利用者が操作可能である。
- 原則3:理解可能(Understandable)
- 情報およびユーザーインターフェースの操作は、利用者が理解可能である。
- 原則4:ロバスト性(堅牢性)(Robust)
- コンテンツは、支援技術を含む幅広い様々なユーザエージェントが確実に解釈できるように十分にロバスト(堅牢)である。
「原則4:ロバスト性」がちょっとわかりにくいですが、ようは、音声読み上げソフトやブラウザの種類など、さまざまな条件に左右されずに利用ができなければならない、という事です。
ちなみに「原則4.1:互換性(Compatible)」では「現在および将来のユーザーエージェント(支援技術を含む)で利用できるように、最大限の互換性を保つようにすること」となっています。
まとめ
2009年版は、機械的評価ができる基準ができた事でわかりやすくなった部分もありますが、制作側で判断する基準に関しては、逆に、2004年版よりも2009年版の方が曖昧な表現が多くなっています。
これにより、ちゃんと内容を理解できていない人は苦労する事になりそうですね。「この基準はこの方法で実装せよ!」なんて図入りの参考書ができれば売れそうな気もします。
それと、アクセシビリティ達成等級が「A」「AA」「AAA」という形になったことで「AAならばこれだけの工数です」といったように料金体系のメニューも区別しやすくなりそうです。
さて、後はこれらをどうやってビジネスに結びつけていくかですね。
アクセシビリティは、施したところでビジネスに直結するような性格のものではありません。この不況下、余裕がなければアクセシビリティは「まあ追々対応していきます」と後回しにされがちになります。
とはいえ「さあ必要になったぞ」となった時に対応できないでは話になりませんので、少しずつ理解を深めていこうかなと思っています。
あと余談ですが、今回のセミナー会場は机が用意されていなく椅子だけだったのですが、その椅子が堅いのなんの。そんな状態での3時間のセミナーだったので、ケツが割れそうでした...。
えっ?、最初から割れ(以下略)
追記:色々Webサイトのランキングがあるけれど、どれもイマイチ
質問コーナーの時に、下記の質問をしました。
- Q:自分
- 「色々Webサイトのランキングがありますが『ココのランキングはしっかりやっている』というランキングはありますか?」
- A:植木さん
- 「えーと、無いですw。まだまだどこも基準がいい加減です。例えば、某企業サイトランキングの場合『トップページから1クリックまでが審査範囲』となっていますが、これでは意味がありません。まあでも、参考になる部分が少しはあると思いますけどね。」
...うーん、厳しいご意見ですね。
-
カワジ
2009年5月 8日 16:37 はじめまして。MISOのカワジと申します。
私も名古屋からこのセミナーに参加していましたよ。なかなか名古屋でこういったお話ができる方がいないので、是非一度お話できればな、と思います。地方でも地道に進めていかないといけないですねー。(地方だから「こそ」、地道さが必要ですが)
金曜日のMISOセミナーでお会いできそうですので、その時にご挨拶させていただきますね。-
小川貴史
2009年5月 8日 16:38 こんにちは、小川です。
Blog見させてもらいました。というか参考にさせてもらいましたw。
そうですね、たまーに名古屋でもアクセシビリティのセミナーをやっていますが、まだまだ取りかかっている方は少ない気がしますね。
金曜日楽しみにしています。では失礼します。
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